こんな時どうしたらいいの!?アルバイトの法律相談Q&A

初めてのアルバイトは分からないことだらけで、時には予期せぬトラブルに見舞われてしまうことも……。でも基本的な知識さえ押さえておけば、多くのトラブルを回避することができるはず。アルバイトに関する疑問や気になることについて、法律的な視点からアドバイスしていきます。

Q1.試用期間の待遇は下がって当たり前なの?

 

1~2回の採用面接だけで、その人が企業に合った人材かどうかを判断するのはとても難しいもの。そこで、その人の適性や能力、勤務態度などを見極め、本採用するかどうかを決めるための期間として設けられるのが「試用期間」です。

 

試用期間は法律で義務づけられているわけではなく、導入の有無は企業によって異なります。試用期間中は、本採用の時給よりも少ない額を提示する企業もありますが、各都道府県の最低賃金以上の時給が支払われます。

 

試用期間の待遇を含め、これからどういう条件で働くことになるのか、面接時、あるいは採用決定後にしっかり確認し、いざ働き始めてから認識がすれ違うことのないようにしましょう。

Q2.1日何時間までなら働くことができるの?

 

アルバイトも正社員と同じように、法律で労働時間の上限が定められています。労働基準法により「原則1日8時間、1週間で40時間まで」です。これを「法定労働時間」と言います。

 

ただし、従業員が10人未満で、理・美容業、接客・娯楽業、飲食店などの業種は、例外として週44時間(1日8時間は同じ)の法定労働時間が認められています。会社と労働者の間で時間外・休日労働に関する協定を結んでいれば、法定労働時間を超えて働くことも可能になりますが、この場合は残業手当が支払われるので、覚えておきしょう。

 

特に注意したいのが、アルバイトを掛け持ちする場合。いくつアルバイトをしても、あくまで法定労働時間の上限は変わりません。念のため、アルバイト先には掛け持ちしている旨を報告しておくのがよいでしょう。

Q3.残業代は1分でも過ぎたら出るの?

 

法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えたら、雇用主は法定時間外労働として残業代を支払わなければなりません。

 

労働基準法では、働いた時間分だけ報酬を支払うことになっているので、原則1分でも超えれば残業代はもらえます。ただし、雇用主が1カ月ごとに賃金を支払う場合に限って、「1カ月間の残業時間の30分単位での端数切り捨て」が例外的に認められています。日払いで報酬を受け取っている人の場合は、この条件に該当しないので、残業が発生した場合は1分単位で全額支払われることになります。

 

残業代は、原則として通常の賃金の25%以上割増して支払う義務があります。1カ月60時間を超える法定時間外労働(※1)に対しては、割増率が50%以上になります。

★<法定労働時間>と<所定労働時間>って、どう違うの?

 

労働時間には「法定労働時間」以外にも「所定労働時間」という言葉があります。「所定労働時間」とは、バイト先の契約で定められた労働時間のこと。企業側は、法定労働時間の範囲内であれば所定労働時間を自由に設定できます。例えば「所定労働時間が1日7時間」に設定されていて、1時間以内の残業をしたとします。この場合は、法定労働時間の8時間を超えないため、法律上残業代の割増義務はなく、通常勤務と変わらない賃金(時給)で計算されることもありますので、ご注意ください。

※1 2020年現在、60時間超の法定時間外労働に対して50%以上の割増賃金の支払いが義務づけられている企業は、業種や従業員数、資本金額によって限定されています。しかし2023年4月以降は、すべての企業が支払い義務の対象になります。

Q4.アルバイトの休憩時間って、どのくらいあるの? 

 

休憩時間も、労働基準法によって以下のような決まりがあります。

 

・労働時間が6時間以内の場合、最低休憩時間は0分

・労働時間が6~8時間以内の場合、最低休憩時間は45分

・労働時間が8時間を超える場合、最低休憩時間は1時間

 

アルバイトだと1日6時間以内の勤務も少なくないと思いますが、法律上は問題ないので、休憩なしで働くこともありえます。働く上では休憩時間の有無も大事な要素になってくるので、応募の際に確認するようにしましょう。

Q5.備品を壊してしまったら、給与から天引きされるの?

 

「アルバイト中に、お店の備品を壊してしまったらどうなるの?」初めてのアルバイトを前に、そんな不安を持っている人もいるかもしれません。

 

例えば勤務中に手が滑り、店舗内に飾ってあったディスプレイを壊してしまったとします。もう少し注意していれば落とさなかったかもしれません。このように、仮に従業員本人に過失がある場合でも、企業から100%の損害賠償を求められることはありません。ただし、故意または重大な過失によって企業に損害を与えた場合は、企業が損害賠償を求めること自体は違反ではありません。

 

しかし裁判になった際、仕事上のミスによって会社への賠償義務が認められることは、非常に少ないケースです。なお、給与からの賠償金や違約金などの天引きは労働基準法で禁止されていますので、もし天引きされているようなことがあれば、まずは「労働条件相談ほっとライン」(※2)に相談してみましょう。

 

※2 厚生労働省「労働条件相談ほっとライン」

https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/lp/hotline/

 

Q6.深夜手当や休日出勤手当に該当するのはいつ?

 

深夜手当は、「午後10時から午前5時までの深夜の時間帯」に働いた場合に支払われる手当のこと。休日出勤手当は、「法定休日(※3)に業務を行った場合」に支給される手当です。深夜手当は25%以上、休日出勤手当は35%以上が、通常の賃金(※4)に割増されて支払われます。なお18歳未満は、労働基準法で午後10時から翌日午前5時までの深夜労働が禁止されています。働く前に必ず勤務時間を確認しましょう。

 

※3  法律で定められた必要最低限の休日(1週間に1日以上、または4週間を通じ4日以上の休日)のことで、どの日を法定休日とするかは会社が決定します。

※4 計算するときは時給に換算します。例えば22時~5時の7時間なら7時間分割増が必要なので、通常の1時間あたりの賃金に割増率をかけます。日給や月給で決まっている場合には、1日あたり、1月あたりの所定労働時間で割って算出します。

Q7.アルバイトから正社員って、本当になれるの?

 

アルバイト情報を見ていると、「正社員登用制度あり」という言葉がよく出てきますよね。これは、アルバイトやパートなどの雇用形態で働く従業員が正社員へキャリアアップできる制度のこと。

 

業界によっては、積極的に正社員登用を行っている企業も多く見られます。ただ、すべての企業に導入されているわけではなく、また導入していても正社員になるための採用基準は企業により異なるため、「将来的に正社員になりたい」と考えている人は、正社員登用の条件や実績を確認したほうがいいでしょう。

 

登用制度がある場合は、まずは上司に正社員になりたいという意志を伝えてアピールするのがベストです。その上で、「君がいないと困る」と社員の人たちに一目置かれる実績を挙げていけば、正社員になれるチャンスも広がっていくでしょう。

Q8.突然解雇を言い渡されたら、どうすればいいの!?

 

バイト先で、突然のクビ宣告!? できれば、そんな経験はしたくないですよね。でももしそうなってしまった場合、どのように対処すればいいのでしょうか。

 

「解雇」とは、雇用主が一方的に雇用契約を解除すること。しかし労働契約法では、「客観的合理性」と「社会的相当性」のない解雇は、雇用主側の権利の濫用にあたり無効であると規定しています。

 

一方、バイト先の物を盗んだり、業務中に飲酒運転を起こしたりといった刑法犯罪に相当する振る舞いや、お店の評判を著しく損ねるような動画を投稿したりといった業務妨害などは、解雇理由に相当します。何度注意されても直らない無断欠席や遅刻、勤務態度の悪さなども場合によって当てはまるでしょう。また、「整理解雇」といって、バイト先が業績不振に陥った際の人員整理による解雇も可能性としては挙げられます。

 

なお、労働基準法では、労働者を解雇するためには、原則「30日以上前に解雇予告(解雇すると伝えること)をしなければならない」と定められています。万が一、雇用主が予告をせずに即日解雇する場合は、30日分の賃金=「解雇予告手当」を労働者に支払わなければならないことが義務付けられています(ただし、労働者の責任が重い場合等には例外もあるので注意)。

 

以上のように、正当な理由なく雇用主が簡単に解雇することはできないように法律では定められています。万一不当な解雇を言い渡されたら、「労働条件相談ほっとライン」や近くの労働基準監督署に一度相談してみましょう。

まとめ

 

初めてアルバイトをするにあたっては、さまざまな疑問や不安が湧き起こってくるでしょう。ただし、労働基準法に基づいた労働条件の明示はすべての雇用主に義務付けられており、特に重要な事項は書類で確認することができます。入社してから、「こんなの聞いてなかった!」と後悔しないためにも、心配なことや気になることは事前に確認しておきましょう。

 

監修:うたしろFP社労士事務所 社労保険労務士/1級FP技能士CFP® 歌代将也

取材・執筆:西谷忠和

イラスト:藤田マサトシ

図版:藤田倫央

編集:波多野友子(ノオト)